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人生に最も影響を与えた授業。トータル・リーダーシップ。

さる2月5日、昭和女子大学の女性文化研究所が主催するシンポジウム「人生と組織を変えるリーダーシップ:これからの働き方と生き方、組織経営」にて、基調講演をさせていただきました。

 このシンポジウムの議論のベースとなった理論は、ペンシルバニア大学ウォートン校の看板授業、スチュワート・D・フリードマン教授が教える『トータル・リーダーシップ』。MBA留学時代に私も数か月にわたりこのコースを受講し、その後の私の働き方やキャリアに最も大きな影響を与える授業となりました。

 初日に教壇にたった教授の第一声が忘れられません。

「みなさん、リーダーシップとは社長や政治家など一部のエリートのためのもので、自分には無縁のものだと思い込んでいませんか。(中略)今日からそうした考えは全て捨ててください。」

リーダーシップという抽象的な概念を、「他者を巻き込んで変化を起こす力」としてシンプルに定義し、私たち一人一人にチェンジメーカーたれ、と熱く説くフリードマン教授。それまでまったく別次元の概念と捉えられていた「リーダーシップ」と「ワーク・ライフ・バランス」を融合することで、人生の生産性と満足度を高められることを実証研究を通じて明らかにしました。まだ「働き方改革」というコンセプトすらなかった時代に、この革新的な理論はビジネス界に衝撃をもたらしました。

 トータル・リーダーシップ理論では、人生の構成要素を「仕事」「家庭」「コミュニティ」「自分自身」の4つの領域に分け、注意深くそれらの重なり合いやバランスを最適化していくことが重要となります。どんな小さな変化でも、その過程には現状を変えたくないという抵抗があり、失敗したくないという気持ちが働きがち。そこで授業ではまずは小さな変化を起こす「実験(マイ・プロジェクト)」を設定し、チームで励ましあいながら、失敗を恐れず、ひとつずつ実践していきます。

留学前の頃の自分。仕事に偏り、シナジーが少ない。

私は当時このコースを受けたことによって、自分の思考と習慣を抜本から見直す機会を得ました。コースの最終日に、「日本でもぜひ広めさせてほしい」と教授に掛け合い、帰国後にはフリードマン教授が使用していたテキストを翻訳・刊行しました。2013年に講談社から刊行した『トータル・リーダーシップ 世界最強ビジネススクール ウォートン校流「人生を変える授業」』です。

この本に早くから着目してくださったのが、昭和女子大学の北本佳子教授と今井章子教授でした。私が弁護士業で忙しくなり国内でワークショップを続けることが難しくなったあとも、大学の創立100周年記念事業として、トータル・リーダーシップを用いた実証研究を日本で進めてくださいました。

 シンポジウムにはたくさんの学生や社会人、福祉関係に従事されている方々などがオンラインで参加し、開催中もチャットでたくさんのコメントを寄せて頂きました。パネル討論では『女性の品格』などの著書でも有名な昭和女子大学の坂東眞理子理事長・総長や、企業の人事責任者の方々を交え、女性活躍推進や働き方改革2.0などについて、広範かつ深い意見交換をすることができました。

参加者の方から、4つの領域のうち「コミュニティ」というのが、何を指しているのかわかりにくいとの質問を頂きました。実はこの「コミュニティ」領域の活動には、仕事と家庭以外の対外的な活動時間をすべて入れてもらってかまいません。高校の同窓会やママ友の集まり、趣味のスポーツに町内会のお手伝い……。誰しも意外なほどいろんなコミュニティ活動をしていることに気づくはずです。参加者の皆さまには「コミュニティ活動の棚卸し」をお勧めさせて頂きました。仕事と家庭以外に日頃どんな活動をしているか、書き出し見つめ直してみることで、自分の生活の中でもっと時間をかけたいこと、さらに挑戦してみたいことなどが見えてくるかもしれません。

 坂東理事長からは、女性の置かれた状況についてご指摘がありました。これまでは女性が地域のお世話やボランティア活動など利他的な活動をしていると、「それはあなたが好きでやっていることでしょう?それをやっていることを言い訳に使わないでね」と言われてしまうことも多かった。女性という役割が押しつけられていた中では、利他的な活動がむしろわがままで利己的な行動とみられてきた面もあるというのです。そうした風潮を見直し克服するタイミングに来ているのかもしれないとのお言葉には、ズシリと重みがありました。

 思えば私が昨年の選挙の際、地元でさまざまな立場の女性の方にお話を伺ったときにも、女性の社会進出に立ちはだかる「壁」を感じたことがありました。優れた経歴や専門性を持った女性の方に、ご自分の力を活かしてどんどん新しい挑戦をしてみてはいかがですかと水を向けると、「いえいえ、いまは家事の負担が大きいからちょっと無理ですね」とのお答え。家庭内でご主人と家事分担を見直してみるというのは?と提案してみても、「いやウチは難しいですね、変わらないですよ」と諦めの声が多いことに驚きました。

出典:内閣府「共同参画」(2018年5月)

日本では男性が家事分担に費やす時間が他の先進国と比べてかなり低い点が女性活躍を進める上での大きな課題として以前より指摘されています。変化の第一歩を踏み出すのに躊躇している女性の皆様には、例えば、家庭での家事分担の見直しをひとつめのマイ・プロジェクトと定めて、実践してみるのも一考かもしれません。

 労働人口が急速に減っていくこれからの日本社会では、男性女性を問わず誰もがよりクリエイティブで、提案型の発想のできるチェンジメーカーになっていくことが求められています。世界的に見て女性の活躍が立ち遅れている日本で、女性のいっそうの活躍や社会進出を後押しするためにも、トータル・リーダーシップの理論が少しでも役立てられるのだとしたら、うれしいかぎりです。

 「リーダーシップとは、誰でも学び、伸ばすことができる能力である」

フリードマン教授の言葉を心に刻み直すきっかけを与えてくださった昭和女子大学の先生方に、改めて感謝と敬意を表したいと思います。私自分も改めて4つの領域のバランスを見つめ直し、大勢の力をお借りしながら、時代の変化に挑戦していくぞ、と決意を新たにした一日でした。

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