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ニンゲンドックと野戦病院。日越医療連携の軌跡と展望

大勢の市民でごった返すベトナム・ホーチミン市の国立チョウライ病院。その入り口の壁に掛かる一枚の古びた銅版にはこんな文字が刻まれています。

「日本国は、ヴェトナムの人々の祝福を願い両国友好の記念として、この病院建物をヴェトナム共和国に贈る。1975年1月」

                          ベトナム・国立チョウライ病院

1973年に日本とベトナムが外交関係を樹立してから半世紀。この長きにわたる歴史の中で、両国は経済、文化、技術、そして医療の面で連携を深めてきました。国交樹立50周年を期に9月28日にホーチミン市で開催された「国際医療協力シンポジウム」に登壇した際の様子と、我が国の国際医療協力の意義についてご紹介します。

多くの市民の目にとまる場所に設置された国立チョウライ病院の銅板。

1.ベトナムの医療現場で活躍する日本の医療技術

厚生労働大臣政務官として、初めての公務での海外出張。最初に訪れたのは、ホーチミン市の中心部に位置する国立チョーライ病院。ここでは5年前から日本の国際医療福祉大学の技術支援を受け、日本式の人間ドックサービスが市民に提供されています。施設は明るく清潔感に溢れ、MRIやCTなど多くの日本製の最新医療機器が設置。画像診断など日本の医師とのリモートでの連携により、高品質な健康診断サービスが提供されています。「今はニンゲンドックというだけで、ベトナムの人たちにもサービスをわかってもらえるようになってきた」と胸を張る看護師長さん。地元での人気の高さを伺わせます。

次に訪れたホーチミン医科薬科大学病院では、日本の先進的な医療技術がどのように現地で活かされているかを具体的に見ることができました。ベトナムでは人口の約10%にあたる780万人がB型肝炎ウィルスを保有(日本では1%)しており、かねてより深刻な社会課題に。面会させてもらった4歳のグエン君(仮)も翌日に肝臓の移植手術を待つ身で、彼の執刀のために日本から2名の専門医が飛行機で来越するとの説明を受けました。こうした国際医療協力にはは人道的な意義はもちろんですが、日本に比べ症例数の多いベトナムでの執刀経験が日本の医療技術の向上にも資する側面もあるとのこと。グエン君の手術の成功を祈ると共に、グエン君以外の大勢の肝炎患者の皆さんにこうした医療協力の恩恵が行き届くよう政府としても引き続き支援していく考えをお伝えしました。

翌日の手術を控えご両親に見守られるグエン君。心から成功を祈ります。

2. 混雑する現地医療施設と病院の機能分化の重要性

一方で、チョーライ病院の一般棟では、深刻な混雑状況が展開されていました。2000床の受け入れ容量に常時3000人以上が入院している上に、廊下やロビーには患者のご家族が所狭しと座り込み、さながら野戦病院のよう。通り一本を隔てた先ほどの人間ドック棟との違いに大きな衝撃を受けました。

病院混雑の原因は大きく二つ。一つは、日本と異なりベトナムでは着替えや食事など患者の身の回りのお世話は看護師ではなく家族が行う必要があること。入院中は家族もつきっきりでサポートをしないといけないため、院内は常に家族で大混雑となってしまうそうです。もう一点は、病院の機能分化が進んでいないこと。ベトナムでは日本のように高機能な総合病院と、身近なかかりつけ医などの役割分担が進んでいないため、多くの患者が高度な医療サービスを求めて総合病院に殺到しがちとのこと。ベトナムの政府関係者は「日本のような改革を進めないといけない」とため息をつき、病院の機能分化の重要性とその難しさに頭を悩ませているようでした。

日本でも地域包括医療システムの構築に向けた難しい改革が待っています。こうして国内外の医療現場を比較することで、国際的な医療連携の意義だけでなく、日本の医療制度の進むべき道についても一層考えを深める機会となりました。

日本の支援による先端的な医療機器が完備されている施設も。人材育成も急務です。

3.新たなWIN-WINの国際医療連携へ

シンポジウムでは、日越両国の医療行政の関係者が一堂に会し、今後の連携の方向性や具体的なプランについて深く議論されました。冒頭の武見敬三・厚生労働大臣のビデオメッセージでは、

「日本では、一般的な医療を完結させる二次医療圏において、医療機関間での役割分担を明確化しながら、良質で効率的な医療提供体制を整備してきました。」

                             武見敬三・厚生労働大臣

と日本のこれまでの取り組みを紹介。ベトナムの高齢化の進展を見据え、同国の医療改革への力強いエールと更なる連携強化を確約されました。

シンポジウムには日越双方から、政治・行政・医療・メディアなど多くの関係者が参加。

私も最初の基調講演とパネルディスカッションに登壇し、現在推進中のベトナムへの様々な医療支援のプロジェクトを紹介(プレゼン資料はブログ末尾をご覧ください。)。また、日越の更なる国際医療協力の進展により、アジア地域全体における感染症予防や医療DX(デジタルトランスフォメーション)などの分野で両国が大きな貢献ができることへの期待についてお話ししました。併せて、ベトナムのフオン保健副大臣と会談を実施。詳細は省きますが、今後の日越の医療連携のさらなる強化や、新たなプロジェクトの展開について有意義な意見交換を行うことができました。

ネルにはベトナムのティエン元保健大臣や日本の藤原康弘PMDA理事長も登壇。
それぞれの立場から濃い意見交換が行われました。

両国関係の新たな50年が始まります。

今回のホーチミン訪問は、日越間の医療連携がどれほどの成果をもたらしてきたか、そしてこれからどれほどの影響を及ぼすことができるかを具体的に感じさせてくれる機会となりました。「支援国」と「被支援国」というかつての関係から、新たな成熟した日越関係へ。今回のシンポジウムが、互いの国の市民に最良の医療を提供するという共通の目標に向けたwin-winの連携へ踏み出す一歩となるよう、全力で自分の役割を果たして参ります。

最後に、初めての不慣れな公務出張を丁寧にサポートしてくださった厚労省の皆さま、現地大使館の皆さまほか関係者の皆さまに心から感謝申し上げます。

愛知県への留学経験もあるフオン保健副大臣。
医療連携の更なる進展に向けお互いの協力を約束しました。

<講演資料:保険医療分野における日越協力について>

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