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新型コロナアドバイザリーボード。専門家たちは最後に何を語ったか

3月25日。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会を会長として引っ張ってこられた尾身茂氏は、眼鏡の奥を鋭く光らせ武見敬三厚生労働大臣に語りかけました。

「キーワードは平時への備え。今日の機会に4点申し上げたい。」

パンデミック発生から4年。124回にわたり会議を開き、感染状況等を分析・評価して政府への助言を続けてくださった厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードがその役割を終え3月末で解散することに。感謝の意を込めて、武見大臣より専門家の方々に労いの言葉とともに感謝状が贈呈されました。

未曾有の国家的危機に際し、先頭に立って対峙してきた専門家たちが、アドバイザリーボード解散にあたり何を思い、何を語ったか。報道では伝えきれない生の声を共有させていただきたいと思います。

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感染症拡大防止にご尽力頂いたアドバイザリーボードの先生方

日本の感染症対応を牽引した厚生労働省アドバイザリーボード

私とアドバイザリーボードの先生方との出会いは、新型コロナの感染拡大が始まった2020年に遡ります。

当時、私は国会議員になる前の弁護士時代。突然の休校を持て余す子どもの世話などに追われながら、報道等を通じてパンデミックの広がりを懸念を持って注視していました。拡大する感染症への危機感から、船橋洋一先生らと一緒に新型コロナ対応・民間臨時調査会(一般財団法人アジアパシフィックイニシアチブ)を立ち上げ。共同主査として、独立した民間の立場から政府の新型コロナ第1波への対応を検証し、同年10月に報告書を発表しました。

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新型コロナ民間臨調の共同主査として政府の第一派対応の検証報告書を公表(2020.10)

コロナ民間臨調の検証の過程でインタビューさせて頂いたのが、アドバイザリーボードの脇田座長、尾身先生などの専門家の方々。夜遅くにコンビニ弁当を片手に大学の空き部屋に集まって議論を重ねたり、土日も時間を削ってデータの分析に明け暮れたり。文字通り寝食を犠牲にして国民の命を救うために奔走されていた様子に深い敬意を覚えました。

2023年5月、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けが5類感染症となり、日本はG7諸国の中で最も低い死者数を達成しました。アドバイザリーボードの先生方の学術的な専門性と献身的な行動力なくしては、この成果は得られなかったでしょう。厚労省の政務官として、改めて政府としても正式に感謝の意を表明したいと考え、武見敬三厚生労働大臣より感謝状を贈呈させて頂くこととしました。

次の世代の育成が今後の課題

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大臣室での意見交換

厚生労働省10階の大臣室。多くの報道陣のカメラを前に、16名のアドバイザリーボードのメンバーの皆さまもやや緊張した面持ちです。(Webでも9名の先生方にご参加いただきました。)

まず、アドバイザリーボードの座長を務められた脇田隆字先生(国立感染症研究所長)からご発言。共に苦労を分かち合った専門家メンバーと厚労省スタッフへの感謝の言葉に続き、3点のメッセージを共有頂きました。

まず1点目は危機における専門家の役割の難しさについて。
「アドバイザリーボードはリスク評価を目的にスタートしたが、実際にはその時点の感染状況の分析など常に資料作成に追われて、なかなかテーマを決めて議論を深める時間が取れなかったことが残念だった。状況によってはリスク管理の議論を行うこともあったが、 リスク管理の議論をする場所ではないという大前提があるので、東京オリンピックの開催の影響とか、その影響をどうのようにコントロールするかという議論をもう少し積極的に行うことができればと感じるところもある。リスクの分析、評価をする専門家の思いと役所の立ち位置の折り合いをつけることが難しいこともありました。」

2点目は議事録の公開のあり方について。
「アドバイザリーボードは議事概要と全ての資料が公表されているが、議事録は公表していません。これは、当初は専門家が遠慮なく意見を言えるようにという意図でありましたが、国民から信頼を得る会議体であるためにどのように公開していくかという議論が必要だと感じています。」

3点目は人材育成について。
「令和7年度以降、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの統合による新機構が発足しますが、次の危機の時も新機構以外の専門家に活躍していただくことがあり得ます。 必要な研究者をリストアップすると同時に、感染症対策に必要な人材を育てていく体制を機構を含めて作っていく必要があります。新型コロナ流行のリスク評価で重要だった疫学や数理解析の専門家、 さらに感染症専門医、公衆衛生、倫理的法的社会課題の分野など、参加していただいた多くの分野の専門家の次の世代の育成が今後の課題だと強く感じています。」

100年に一度の経験を次への備えに

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政府のコロナ対応をリードされてきた尾身茂会長

続いて、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の会長も務めて頂いた尾身茂先生(公益財団法人結核予防会理事長)から、「キーワードは平時の備え」との前置きに続き、4点の提言がありました。

1点目は医療制度の構造的な見直しについて。
「日本の医療の質は世界でトップクラス。しかし、今回、感染者の数、死亡者の数は、欧米に比べたらはるかに少なかったにもかかわらず、緊急事態宣言を何度か繰り返さなければならなかった。これは日本の医療制度そのものも大きく関係しているのではないかと思います。 したがって、この機会に構造的な医療制度の検討をぜひ厚労省がリーダーシップをとってやっていただきたい。」

2点目は感染症危機管理の組織体制について。
「日本版CDCの設立に私は大賛成です。しかし、これがよりよく機能するためには、全国の感染症に強い組織、研究所とのネットワークをあらかじめ構築することが極めて重要。また、今回は8割おじさんと呼ばれた人もいましたが(笑)、数理モデルの研究者など必要な新しい分野の人材の育成とネットワーク構築も是非同時にやっていただければと思います。」

 3点目は医療情報のデジタル化の加速について。
「医療情報のデジタル化については長く議論されてきたが、利害関係者が多いということもあって、我々が望むほどのスピードでは進んでいません。国が強いリーダーシップをとって、次の感染症に備えるために、 デジタル化については徹底的に優先順位の高いものとしてやっていただきたい。医療、公衆衛生学の情報の足りなさが、この4年間の我々の最も大きなフラストレーションの1つでした。」

4点目は、リスクコミュニケーションの難しさについて。
「危機におけるリスクコミュニケーションの難しさは、行政官も我々も強く感じたところです。危機になると様々な立場、価値観で、みんな考えることが違って、そう簡単ではない。しかし、あるべき「共創的」なリスクコミュニケーションのあり方については、役所だけじゃなくて、市民社会の人、あるいはリスクコミュニケーションのプロ等々の意見も聞いて、今のうちにじっくりと考えておく必要があると思います。」

こうした委員の方々のご意見を受けて、武見敬三厚労大臣より丁重な感謝と労いの言葉とともに、一人一人に対して感謝状が手渡されました。

「まだまだポストコロナの新たな危機管理体制作りというのは始まったばかり。 ぜひ先生方にはこれからも引き続きのご支援とご指導をお願い申し上げたい。 他の国と比較しても見事にその死者数を抑え込むことに成功したことについて、心から感謝を申し上げたいと思います。」

喉元を過ぎても熱さを忘れないために

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次の感染症機器への備えに向け、決意を新たに。

4年前、新型コロナ民間臨調の検証を行なっている中である政府関係者がつぶやいた後悔の一言が今も印象に残っています。

「喉元を過ぎて熱さを忘れてしまった」

尾身会長が説くように、危機管理においては「平時の備え」が何よりも大事。しかしそれを着実に実施することがいかに難しいかを、我々は失敗を繰り返すたびに痛感してきました。

物資が足りなければ、買い貯めておくことができる。法律や制度に問題があれば、事前に変えておけばいい。しかし、おそらく最も備えが難しいのは「人」。今回結集してくださったアドバイザリーボードの先生方の学術的な専門性と、この4年間のご苦労を通じて培われた経験知こそ、最も希少で貴重な国家的資源ではないか。大臣室に集う歴戦の面々に囲まれながら、そんな思いを強くしました。

感染症危機は形を変えて必ずまたやってきます。その時に備え、専門家の皆さまのお力を借りながら、引き続き危機に強い国づくりに全力で取り組む決意です。アドバイザリーボードの方々に心から敬意と感謝を表するとともに、関係者の皆様のご協力に御礼申し上げます。

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